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派遣は格差社会の元凶ではない
派遣は格差社会の元凶ではない
社団法人 日本人材派遣協会
専務理事 松 田  雄 一 
 
− 目 次 −
   はじめに
   派遣業の現状
   派遣の果たしている役割
   派遣業の今後の取り組み
 
 派遣は格差社会の元凶ではない (印刷用PDFファイル)
 
 
 はじめに
 ここのところ、「格差社会」という言葉が定着し、「格差の是正」が国会でも大きく取り上げられるに至っており、派遣がワーキングプアを生み、格差社会の元凶であるかのような論調がしばしば見られる。
 これは、非常に一面的な見方であり、我々としては、派遣が我が国経済社会の中で果たしている役割を正しく認識し、評価して頂きたいと思っている。
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 派遣業の現状
 労働者派遣法が1986年7月に施行されて20年を経過し、売上高4兆円強、派遣労働者数約130万人、受け入れ事業所数66万、派遣業の事業所数4万8千となり、派遣業は、労働力需給システムの重要な機能の1つとして、我が国労働市場の活性化、効率化にとって欠かせない存在となりつつある。
 にもかかわらず、ここに来て、派遣業に対して逆風が吹くに至った。なぜかと考えると、次のような理由が考えられる。
 
(1)
「実感がない」といわれながらも景気拡大が続く中で、雇用、処遇の改善圧力が強まってきている。その実現を妨げているのが、「国際競争力の強化」などと並んで「派遣の存在」も理由の1つととらえられているのではないかと思われる。
(2)
派遣が非正規労働者の大層を占めていると思われている。
(3)
派遣は「低賃金」ととらえられている
(4)
派遣という働き方が、「正社員になれないから仕方なしに選択したもの。」と思われている。
(5)
昨今、偽装請負の問題が大きく取り上げられ、派遣への切り替えも進んでいるが、請負と派遣が混同されているケースも多い。

 これらが主な理由と思われるが、いわば誤解である。

 まず、(1)についてであるが、「派遣」がなかったら、常用が増えるかと言うと
そうではない。
最近、派遣の浸透に伴って、企業が派遣を活用する場面がノンコア業務から一歩踏み込んでコアの周辺業務まで拡がりつつあることからすると、若干はそうした事も考えられる。
しかし、派遣にはそもそも「常用代替の防止」ということで、制度上、種々の措置がとられている。そして、次に見るようにいわゆる非正規に占める派遣の割合がかなり小さい。これらから、派遣がなかった場合でも、パート、アルバイト、契約社員などが増えていただけと思われる

 次に(2)については、派遣労働者数は下記のように140万人であり、これに対してパート、アルバイトは1100万人、契約社員らは300万人いる。
いわゆる「非正規(この言葉自体適切な表現とは思われないが。)」の中に占める割合は8%、雇用者全体では2%に過ぎない。ところが、規制緩和などもあって急速に拡大し、注目を集めたために、格差社会の象徴のようなイメージが形成されたのではないかと思われる。
 
■労働力人口の内訳
出所:総務省統計局「労働力調査詳細結果(2002年、2006年10〜12月平均)」
 
 (3)については、後述のように、派遣労働者が働く動機は千差万別であり、賃金もまた千差万別である。にもかかわらず、これらを単純平均して、働き方がほぼ一定している常用労働者と比較するため、その差が強調されている。
 常用労働者と同様の働き方をしている派遣労働者の賃金は、責任範囲の違いや賞与など、制度上の違いを考慮すると、直接働いたことへの対価という点では、言われるほど大きな差はないと思われる。
 
 (4)については、2005年10月に厚生労働省が行った「労働力需給制度についてのアンケート調査」の結果によれば、派遣を選択した理由に「正社員として就職先が見つからなかった。」が33%あるものの、「働きたい仕事内容が選べる」が40%とこれを上回っている。
 派遣は働き方の一つとして、定着しつつある。
 
■登録型の派遣労働者が派遣という働き方を選んだ理由
 
■派遣労働者が今後、希望する働き方
出所:厚生労働省「労働力需給制度についてのアンケート調査 集計結果」(平成17年実施)
 
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 派遣の果たしている役割
(1)多様化するライフスタイルの受け皿
 女性の社会進出、高学歴化、少子高齢化などに伴って、働き方やライフスタ
イルの多様化が進んでいる。例えば、以下のような多様な就労ニーズの受け皿
として派遣は機能している。

体力的に長時間労働はできず、短時間で働きたい。
子育てや介護など、家庭の事情で短時間しか働けない。
教育費がかさむため家計補助を目的に、家事に負担のない程度の仕事をしたい。
年金をもらっているので多額の収入は要らないが、社会とはつながっていたい。
派遣でキャリアを積みたい。
まずは派遣で働いて自信をつけ、正社員を目指したい。
自分の専門能力を生かして働きたい。
責任範囲や仕事内容が明確な働き方をしたい。
 
(2)失業予防
 正社員への登用ばかりを求める論調が多くなっている。正規雇用だけが好ましいものでそれ以外は良くないものとするならば、上のようなフレキシブルな働き方は否定され、結果として経済活動は停滞し、失業者も増加することとなる。
 また、「正社員としての就職先が見つかるまで」つなぎとして派遣で働く者もいて、派遣会社はこうした者に就業の機会を提供している。
さらに、紹介予定派遣が制度化されたことにより、正規雇用を望む派遣労働者の安定雇用の機会が増大している。

 
(3)能力開発の推進
 一般的に派遣労働者は正社員に比べて能力開発の機会が乏しいとの指摘がある。ビジネスマナーやパソコンのエクセル・ワードの基礎的なものから専門的なものまで、スキル向上やキャリア形成に各派遣会社は努力している。
 労働者の視点から見れば、派遣労働者として多くの職場を経験し、あるいは、自分が身に付けたいスキルの習得が可能な仕事を選ぶことで、早期に的確なスキルを習得することができ、エンプロイアビリティー(就業可能性)を高められる。
 
(4)企業活動への人的支援
 派遣先企業が派遣労働者を受け入れる理由として、コストの面が強調されがちであるが、既述の厚生労働省のアンケート調査によれば、「コストが割安なため」は32%で、最も多いのは「欠員補充など、必要な人員を迅速に確保できる」(50%)であり、さらに、「一時的業務量の変化への対応」、「特別な知識・技術が必要なため」などとなっている。
 サービスや商品のライフサイクルが短くなり、また、個別ニーズへの対応が迅速に求められる中、各企業は必要な者を自社でじっくり養成することが困難になっており、派遣会社は企業が求める能力を持つ者を的確、迅速に供給している。
 
 以上のように、派遣業は、日本の経済社会に重要な役割を果たしているし、今後も果たしていくはずだ。
 正規、非正規、アウトソーシングなど、それぞれに特長と役割がある。二者択一的に、正規は良くて非正規はダメ、などと決め付けるべきものではない。これらを経営戦略に基づいて、どうミックスさせて活用していくかが企業にとって重要であるし、労働者にとっても働くうえで多様な選択肢が持てることとなる。
 労働政策研究・研修機構による「日本人の働き方総合調査」(2005年)でもあきらかなように、派遣労働者の満足度は正規社員はもちろん、パートなど他の非正規社員より概して高いことも付け加えておきたい。
 
■今の仕事の満足度
  出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構
「就業形態の多様化の中での日本人の働き方−日本人の働き方調査(第1回)−」
 
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 派遣業の今後の取り組み
 企業と労働者の多様なニーズの受け皿として、派遣業が今後とも機能していくためには、派遣労働者が安心して働ける就労環境を引き続き整え、派遣元と派遣先の良好な関係を引き続き構築していくことが求められる。業界としては、次の点に注力していきたい。
 
(1)
コンプライアンス(法令順守)を一層徹底し、受け入れ企業に対しても法令順守を働きかけていく。
 派遣労働者にまつわるトラブルは、雇用主である派遣元との間にも起こるが、働く現場である派遣先においても多く発生している。このため、派遣元に対してコンプライアンスの徹底を図るとともに、行政の協力も求めながら、派遣先に対して必要なお願いを続けていく。
(2)
派遣労働者に対する各種社会保険の全面適用を徹底する。
 社会保険の全面適用は安定就労の前提として、徹底を図る。一方で、社会保険を始めとする各種制度は、常用労働者を前提に整備されているため、派遣(短期、断続、移動)に適した制度改革を求めていく。
(3)
職業能力開発の情報・機会の付与に努める。
 派遣労働者のキャリア開発及びエンプロイアビリティーの向上のため、職業能力開発の情報・機会の提供に努める。
(4)
正社員を希望する派遣労働者に対しては、それに向けた必要な援助を行う。
(5)
均衡待遇への配慮を進める。
 派遣労働者の就業環境、福利厚生などについて、派遣先が、自ら雇用する労働者との均衡に配慮し、便宜を図ってくれるよう求めていく。
(6)
派遣先に理解を求め、安全衛生やリーガルコストについて、派遣元と派遣先の責任分担を整理する。
 
 派遣業が人を扱うビジネスであることの再認識、徹底を図り、上記の対策を浸透させることにより、派遣元、派遣先そして働くスタッフの3者が、共にハッピーになる派遣業を実現していきたい。
 

月刊人材ビジネス5月号(株式会社オピニオン発行2007/5/1)に掲載
(ただし、一部総務省統計局の数字は7〜9月の数字を10〜12月の数字に置き換えている)

 
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